ポイント
- 注意力(集中力)にはいくつかの働きと種類があります。
- 注意力が低下すると他の認知機能にも影響を及ぼしてしまいますが、自分では誤解してなかなか気づきません。
- 注意力が低下した感じたときに自分で出来る対策を紹介しています。
仕事があるのに集中できない、昔のようにマルチタスクができない、と最近感じることはありませんか。注意力も記憶力と同様に、加齢による変化を感じやすい認知機能の一つです。ここでは「注意力」について説明します。
注意力には種類がある
注意力の分類にはいくつかの考え方がありますが、ここでは心理学で広く用いられている分類と医療現場で用いられている分類を取り上げます。もともと心理学で注意の分類が考案され、その後、医療分野でも活用されるようになったという経緯があるため、その順に説明します。
心理学での注意分類-注意と一口で言っても・・・
心理学では、注意は次の4種類に分類されます。
1. 選択的注意(selective attention)
多くの刺激の中から特定の情報に焦点を当てる。
2. 持続的注意(sustained attention)
一定時間、注意を保ち続ける。
3. 分配的注意(divided attention)
複数の課題に同時に注意を向ける。
4. 転換的注意(shifting attention)
注意の対象を切り替える。
選択的注意の例
例えば、テレビドラマに何人もの俳優が出演している中で、自分の好きな俳優Aさんをすぐに見つけられるような場合です。

持続的注意の例
好きな俳優Aさんがどのような表情をするのか、どのようなセリフを話すのかに、意識を向け続けている状態です。

分配的注意の例
もう一人好きな俳優Bさんが登場したとき、AさんとBさんの両方に気を配っている状態です。

転換的注意の例
テレビ画面の背景が見覚えのある町だと気づき、AさんやBさんから街並みに意識が切り替わった状態を指します。

認知的な処理は注意に限りませんが、一つの処理を延々と続けるというよりも、複数の処理を切り替えたり同時に行ったりしています。そのため、ごく短時間のうちにさまざまな注意機能が働き、さらに他の認知機能も同時に使われています(例えば「あ、Aさんだ」と認識する際には言語処理も関与します)。
医療的注意の分類 ― 何がうまくできなくなっているのか
「なんだかあちこち気になって集中できない......」と感じるとき、どうすればよいのだろうと考える人は多いでしょう。
先ほどの心理学的な分類と類似していますが、ここではリハビリテーション分野で用いられている分類を紹介します。この分類は注意機能の難易度順を示しており、注意障害のリハビリテーションを進める際の順序にもなっています。つまり、注意が定まらないときの対処法を考えるヒントにもなるのです。
注意の分類-リハビリ分野と心理学分野での対比
難易度 | リハビリの順序 | リハビリ分野での注意モデル(Sohlberg & Mateer) | 説明 | 対応する心理学の古典的モデルの注意 | 説明 |
|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 1. 焦点性注意focused attention | 多くの情報の中から特定の情報に瞬間的に注意を向ける | 1. 選択的注意selective attention | 多くの情報の中から特定の情報に焦点を当てる |
2 | 2 | 2. 持続性注意sustained attention | 一定時間、注意を保ち続ける | 2. 持続的注意sustained attention | 一定時間、注意を保ち続ける |
3 | 3 | 3. 選択性注意selective attention | 妨害刺激を抑制して目標に集中する | 1. 選択的注意selective attention | 多くの情報の中から特定の情報に焦点を当てる |
4 | 4 | 4. 交替性注意alternating attention | ルールや作業に注意を切り替える | 4. 転換的注意shifting attention | 注意の対象を切り替える |
5 | 5 | 5. 分配性注意divided attention | 複数の課題に同時に注意を向ける | 3. 分配的注意divided attention | 複数の情報に注意を向ける |
(※1、※2を参照し、筆者が作成)
左側の「リハビリ分野のモデル」に対応させる形で、右側に「心理学の古典的モデル」の項目を配置しています(心理学モデルでは一部の項目が重複しています)。
リハビリ分野の分類は心理学的な考え方を基礎としていますが、注意機能そのものではなく、「どのような注意障害が起こるか」という観点から整理されている点に特徴があります。
注意力も加齢によって低下する
記憶力と同様に、注意力も加齢の影響を受けます。下の図は、日本高次脳機能障害学会が作成したCAT(標準注意検査法)の年代別データです。CATの3つの下位検査をグラフ化したもので、次のことがわかります。
- 50代頃から注意力の平均値が低下し、個人差も大きくなる
- 同じ注意力検査でも低下の仕方は異なり、注意機能の種類によって加齢の影響が現れる時期が異なる

CAT(標準注意検査法)下位検査のデータ(※3より引用、一部加筆)
グラフに示した下位検査について簡単に説明します。
SDMT(Symbol Digit Modalities Test)
記号と数字の対応表を見ながら、記号に対応する数字を空欄に記入していく検査です。
●グラフでは...20代から70代にかけて段階的に低下しています。

※正確なテスト結果は先に上げたグラフです。図のグラフは年齢に伴う推移のイメージです。
Memory Updating Test 3スパン
複数の数字を覚えた後、指示された最後の3桁または4桁を答える検査です。
(例:96783451を覚え、「3桁」と指示されたら「451」と答える)
▲グラフでは...20代から70代にかけて少しずつ低下していますが、SDMTほど大きな差はみられません。

※正確なテスト結果は先に上げたグラフです。図のグラフは年齢に伴う推移のイメージです。
PASAT(Paced Auditory Serial Addition Test)
1桁の数字が次々と読み上げられ、その前後の数字を加算して答える検査です。
(例:1→3→9→5→4→7...に対し、4→12→14→9→11...と答える)
■グラフでは...50代で大きく低下し、70代にかけてさらに低下しています。

※正確なテスト結果は先に上げたグラフです。図のグラフは年齢に伴う推移のイメージです。
SDMTは注意機能に加えて知的操作や記憶も必要とするため、他の2つの検査より総合的な認知能力を反映しています。知能検査で測定される能力が10代後半から20代でピークを迎えることを考えると、それに近いパターンといえるでしょう。
一方、Memory Updating TestとPASATは、知的操作の影響が比較的少なく、注意機能の要素がより強く反映された検査と考えられます。
両者の違いの一つは作業環境です。
Memory Updating Testは回答後に次の問題へ進むため、自分のペースで取り組みやすい検査です。
PASATは一定の速度で数字が提示されるため、考える時間的余裕が少なく、負担の大きい課題です。
つまり、自分のペースで進められる作業では加齢の影響は比較的小さい一方で、時間的余裕がなく次々と処理を求められる状況では、加齢の影響がより強く現れる可能性があると考えられます。
注意力低下が他の認知機能に及ぼす影響
注意力が低下すると、記憶や言語など、他の認知機能にも大きな影響が及びます。
例えば、
- 集中できず、予定を十分に覚えられない(記憶への影響)
- 集中して聞いていなかったため聞き間違える(言語機能への影響)
- 集中して見ていなかったためデザインの違いに気づかない(視空間認知への影響)
といったことが起こります。
注意は他の認知機能を働かせるための最初の入り口です。最初の段階で十分に情報を取り込めなければ、その後の処理に影響が及ぶのは当然といえるでしょう。もの忘れを気にしていると、例えば約束の日時を間違えたという「記憶違い」に注目しがちですが、実は日時に「注意」を向けずに覚えたことは意識されにくいものです。
注意力低下による感じ方のズレ
このように、実際に起きていることと「自分の感じ方」がズレやすく、上のような状況が続くと、多くの方は
- 最近、物忘れがひどくなった(記憶力の低下)
- 耳が遠くなったのかな(聴力の問題)
- 目が悪くなったのかな(視力の問題)
と勘違いしやすくなり、記憶そのものや耳、目の機能を検査しますが、なかなか本当の原因にたどりつきにくいことがあります。
だからこそ先程のような各機能(注意・記憶・言語などを分けて見る検査)のテストを実施することが大切だと考えられています。
注意力低下への対応
「あれもこれも気になる」「仕事がなかなか終わらない」と感じる場合は、まず一つの作業に集中し、確実に終わらせることを意識してみましょう。また、「簡単な作業から取り組む」「一つの作業を最後まで終えてから次の作業に移る」といった方法も有効です。一つのことを終えてから次に進むという考え方は単純に思えるかもしれません。しかし、もともと注意があちこちに向きやすい人にとっては意外と難しいものです。
早い段階からこうした作業習慣を身につけることができれば、長期的に効率よく作業を進めやすくなるでしょう。
もちろん、長年続けてきた習慣を変えることは容易ではありませんし、すぐに効果が現れるとは限りません。しかし、このような工夫は注意力低下への対応として取り組みやすい第一歩になるでしょう。
【東京リライフクリニックからのお知らせ】
MCI(軽度認知障害)への新しいアプローチ
最近集中力の低下や、続かないと感じられたら一人で悩まずご相談ください。当院では、言語聴覚士による専門的な評価と生活習慣の改善指導に加え、「幹細胞培養上清液・エクソソーム点鼻」「NAD+点滴」を用いた細胞環境の最適化サポートもご提案しています。「受診すべきか迷う」という段階でも、まずは現在の状態を整理することから始めませんか?
執筆・寄稿: 言語聴覚士 小山美恵
<経歴>
国立精神・神経センター武蔵病院(現国立精神・神経医療研究センター)もの忘れ外来で心理検査に従事。その後県立広島大学コミュニケーション障害学科、横浜市立脳卒中・神経脊椎センターリハビリテーション部、老健等で言語聴覚療法に関する業務を行う。
参考文献
※1 注意の機能 | 認知心理学
※2 注意障害の臨床、豊倉穣、高次脳機能研究、28(3):320-328、2008
※3 標準注意検査法(CAT)と標準意欲検査法(CAS)の開発とその経過、加藤元一郎、高次脳機能研究、26(3)、310-316、2006



