まとめポイント
- 50代から増える「もの忘れ」―年相応の変化?それともMCI?見分けるポイント
- 「記憶力の問題」だけじゃない!もの忘れを引き起こす意外な原因とは
- 「様子を見てもいい」もの忘れと「早めに相談すべき」もの忘れの境界線
MCIの中でももの忘れが最も目立つタイプは「記憶障害型MCI」です。しかし、他のタイプのMCIでも、多少のもの忘れがみられることは珍しくありません。では、そもそも「もの忘れ」はなぜ起こるのでしょうか。
もの忘れ(記憶力低下)はなぜ起こる?
もの忘れの「原因」というとき、どのレベルで「原因」を考えるかで答えが変わってきます。ここでは「身体面」からの答えと「認知面」内からの答えの2つを説明していきます。

身体面の物忘れ
身体面では、「記憶を担う脳の一部」の働きが弱くなることでもの忘れが起こると考えられます。脳の記憶を担う部位のどこかに機能低下が生じると、結果として「もの忘れ」が目立ってくるというイメージです。記憶に関わる脳部位としては「海馬」が有名ですが、その他の脳部位も重要な役割を担っています。つまり、記憶に関する脳部位のどこに支障が生じても、記憶には影響が出るのです。
もの忘れが疑われる時にMRIなどの脳画像検査で詳しい状態を調べます。「記憶に関わる部品の不具合によって、もの忘れが起こる」という説明で比較的イメージしやすいでしょう。スマートフォンが故障すると、さまざまな機能が使えなくなるのと似ています。
認知面の物忘れ
一方、認知面からもの忘れを説明する場合はやや複雑になります。以下の2つを考える必要があります。
(1) 記憶システム自体の不具合によって、もの忘れが起こる
(2) 他の認知システムの影響によって、結果的にもの忘れが起こる
(1)については、記憶システムの中のどこかで支障が生じることから「もの忘れ」が起こると説明できます。後程、「記憶システム」について解説しますので、そのときにもう一度触れます。
(2)の説明については例で考えるとよさそうです。例えば、ぼんやりしているときに家族から「明日、一緒に買い物に行こうね」と言われても、十分に注意を向けられていなければ、その情報は記憶としてうまく入力されません。その結果、翌日になって「忘れてしまった」という状態になります。これは、注意力の低下によって起こる「見かけ上のもの忘れ」と考えられます。
医療の現場で「もの忘れ」の状態を調べるとき、「記憶」と必要に応じて「その他の認知能力」を心理検査で調べていきます。その結果により、どのMCIタイプであるかも見えてきます。
MCIが疑われる場合
(1)記憶システム自体の不具合→「記憶障害型MCI」
(2) 記憶低下の裏に実は他の認知機能低下が隠れている→他のMCIタイプ
を想定します。
MCIのタイプが異なればその後の対応が異なるので、大切な点になります。心理検査は脳画像検査に比べると、一定の時間や専門的技量が必要となりますが、総合的な判断をするためには必要です。
覚える、保持する、思い出す―記憶システム3ステップ
一般には、「記憶=覚えること」と単純に考えられがちですが、実際にはいくつかの段階や種類があります。それぞれが脳の違う場所と関係していることがわかってきています。
記憶は、「処理の方法」と「その処理を担うシステム(保存媒体)」という異なる水準で考えると理解しやすくなります。
記憶の「処理」の方法
記憶の処理は、一般に次の3段階に分けて考えられています。
- 記銘 = 覚える
- 保持 = 一定期間覚えておく
- 想起 = 思い出す
このどこかの段階に支障が生じると、「もの忘れ」が起こります。
記憶のシステム(保存媒体)
記憶システムは、情報を保持する時間の長さによって分類されます。
- 感覚記憶(付箋) = 一瞬だけ保持する
- 短期記憶 (メモ用紙)= しばらく保持する
- 長期記憶 (印刷した本など)= 数時間〜年単位で保持する
近年では、「短期記憶」は「ワーキングメモリー(作動記憶)」という用語で説明されることも増えています。
長期記憶の種類
- 手続き記憶 = 言葉で説明できない、体が覚えている手順
例えば 自転車の乗り方、ピアノの演奏 - 宣言的記憶 = 言葉で説明できる記憶
となります。
宣言的記憶をさらに分類すると
- エピソード記憶 = 自分にまつわる出来事の記憶(例:「昨日の夕食にカレーを食べた」「先週、友人とカフェに行った」)
- 意味記憶 = 個人の要素がなく、一般的に知られている知識(例:「カレーはインド発祥の料理」「リンゴは赤い果物」)
に分けられます。
そして、実はこの分類は、以下のようにMCIのタイプ分類とつながります。
「エピソード記憶」の不具合 →「記憶障害型MCI」
「意味記憶」の不具合 →意味性認知症が想定される「非健忘型・単領域型MCI」
一般に「もの忘れ」と呼ばれる現象は、「エピソード記憶」の低下を指すことが多く、医療現場で使われる「記憶障害」という言葉も、主にエピソード記憶の障害を意味しています。

文献※1より引用
50代から始まる「健康な加齢」による「もの忘れ」の特徴
病気ではなくても、50代くらいから「前より物覚えが悪くなったかも」と感じる方はぐっと増えてきます。下のグラフは、医療現場でよく使われる「日本版リバーミード行動記憶検査」の健康な人たちの成績を年代別に示したものです。
矢印で示したとおり、年齢とともに点数は低下しています。50歳あたりを境に点数がばらついて個人差が大きくなっているのがわかります。健康でも年齢とともに記憶検査の成績は低下するのです。
50代でばらつき(個人差)増加

健康な人たちの日本版リバーミード記憶行動検査の成績(年齢別)
文献※2より引用、一部加筆
40代の記憶低下
一方で、40代までの若い世代の方が記憶の低下を感じるときは、思いがけない病気(脳の血管のトラブルなど)や、強いストレス・気分の落ち込みが影響していることもあります。
50代からのもの忘れを考えるときは、若い世代と異なって「加齢による記憶低下」が始まっていることも念頭に置くことが必要です。40代までと比べて、健康とされる範囲が広がります。そのため本来注意が必要な数値であっても、50代では健康と判断されるかもしれません。40代に比べて脳血管性障害などの病気が増える傾向もあります。
もの忘れへの対応はお早目に
「もの忘れ」は、年齢とともに少しずつ目立ってきますし、MCIや認知症、脳卒中後の後遺症などでも支障が出てきます。
それでは、もの忘れの程度が軽ければ、それほど問題にならないと言えるでしょうか?筆者は、もの忘れが軽くても仕事や生活への影響はあり、人によっては大きなストレスを抱えることになると考えます。周囲の人が「気にしすぎだよ」と言っても、ご本人にとっては気になるものではないでしょうか。
受診の目安となる「もの忘れの程度」を明確にするのは難しいですが、生活にストレスを感じる程度の「もの忘れ」があるならば、一度受診するのもお勧めです。専門的な検査によって「年齢に応じた健康なもの忘れ」なのか、「MCIによるもの忘れ」なのか、あるいは「他の病気」がないか判断されます。
MCIは「生活に支障はない程度」に「もの忘れ」などがある状態です。つまり重症度で言えば軽いほうになります。そしてもの忘れに対するアプローチは、症状が軽い段階から始めるほど、対応の選択肢が広がりやすいとされています。つまり、初期のうちに手を打つと、効果が出やすく進みにくいということになります。軽いうちに「もの忘れ」への対応を考えることは、ご自分の選択肢を増やすことになるのではないでしょうか。
【東京リライフクリニックからのお知らせ】
生活にストレスを感じる程度の「もの忘れ」がある方は、一人で悩まずご相談ください。当院では、言語聴覚士による専門的な評価と生活習慣の改善指導に加え、「幹細胞培養上清液・エクソソーム点鼻」「NAD+点滴」を用いた細胞環境の最適化サポートもご提案しています。「受診すべきか迷う」という段階でも、まずは現在の状態を整理することから始めませんか?
執筆・寄稿: 言語聴覚士 小山美恵
<経歴>
国立精神・神経センター武蔵病院(現国立精神・神経医療研究センター)もの忘れ外来で心理検査に従事。その後県立広島大学コミュニケーション障害学科、横浜市立脳卒中・神経脊椎センターリハビリテーション部、老健等で言語聴覚療法に関する業務を行う。
参考文献
※1 【認知心理学】記憶の種類と役割 短期記憶と長期記憶について - こんにちは!心理学
※2 日本版リバーミード行動記憶検査(RBMT)の有用性の検討、数井裕光ら、神経進歩46(2)、2002



