幹細胞とは
幹細胞とは、自分自身を複製・増殖する能力と、一定の条件下で異なる細胞へ変化する分化能力、分泌作用、ホーミング効果、パラクライン作用及び免疫調節・抗炎症作用を持つ細胞の総称です。[1]
成人の身体は、約30兆~40兆個もの細胞から構成されており、生まれて間もない赤ちゃんの体内では幹細胞が自己複製と多分化により、成人に至るまでに細胞を増やします。しかし成長するにつれ幹細胞の数や機能が低下していくことがわかっています。
幹細胞の主な作用
01|自己複製・増殖能― 自分自身を増やす能力 ―
幹細胞の基本的な特徴の一つは自己複製・増殖能力です。[1][5]
細胞分裂によって自分と同じ性質を持つ幹細胞を生み出し、必要な細胞数を維持します。
自己複製・増殖能は、幹細胞を必要な数まで増やし、その後の分化・分泌・パラクライン・ホーミングなどの作用を発揮するための基盤となる重要な能力です。

02|多分化能― 異なる細胞へ変化する能力 ―
自己複製・増殖によって維持された幹細胞には、一定の条件や刺激によって異なる細胞へ変化する「分化能」があります。MSC(間葉系幹細胞)は、脳、心臓、血液、歯、骨・軟骨・脂肪 などの細胞系統へ分化する能力を持つことが知られています。[1][5]
多分化能は、幹細胞が一定の条件下で異なる細胞へ変化することで、組織の維持や修復に関わり、再生医療における身体本来の回復・健康維持の可能性を支える重要な能力です。

03|ホーミング(Homing)― 必要とされる場所へ移動する性質 ―
幹細胞には、身体の環境変化に反応して、特定の組織や部位へ移動する性質があり、これを「ホーミング」と呼びます。
組織に損傷や炎症などが生じると、周囲からさまざまなシグナルが発生します。一部のMSCは、こうしたシグナルに反応して関連する組織へ移動することが研究されています。[3][4]

04|分泌・パラクライン作用― 周囲の細胞に情報を伝える能力 ―
幹細胞は、自ら増殖・分化するだけでなく、成長因子、サイトカイン、ケモカイン、細胞外小胞など、さまざまな生理活性物質を分泌します。これらの物質が周囲の組織細胞や免疫細胞に作用し、細胞の働きや組織環境を調節する仕組みを「パラクライン作用」と呼びます。
つまり、幹細胞は自らが別の細胞へ変化するだけでなく、分泌した物質を介して周囲の細胞と情報をやり取りすることができます。この作用は、組織の維持・修復や免疫・炎症環境の調節に関与すると考えられており、再生医療における重要な作用メカニズムの一つです。
05|免疫調節・抗炎症作用― 免疫・炎症環境を調節する働き ―
MSCには、免疫反応や炎症環境を調節する働きがあることが研究されています。
分泌する生理活性物質や細胞間の相互作用を通じて、T細胞、マクロファージ、樹状細胞などの免疫細胞に影響を与えることが報告されています。[3][5]
ここでいう「抗炎症作用」は、炎症を単純に消失させるという意味ではありません。過剰な免疫反応や炎症環境を調節する働きとして理解することが重要です。
このように、幹細胞は、自己複製・増殖によって細胞を維持し、分化によってさまざまな細胞へ変化することで、身体の成長・組織の維持や修復に関わっています。さらに、成長因子やサイトカインなどを分泌し、ホーミング作用によって身体の環境変化に応じた組織へ移動し、パラクライン作用によって周囲の細胞と情報を伝達することにも関与します。周囲の細胞や免疫・炎症環境にも働きかけます。
このような幹細胞の特性を活用する再生医療は、身体が本来持つ修復・維持の仕組みに着目した医療として、今後の健康維持や加齢に伴う身体機能の変化への応用が期待される分野です。
参考文献
[1] Weissman IL. Cell. 2000;100(1):157–168.
[2] Caplan AI, Dennis JE. J Cell Biochem. 2006;98(5):1076–1084.
[3] Yagi H, et al. Cell Transplantation. 2010;19(6):667–679.
[4] Regulski MJ, et al. Cells. 2022.
[5] Brown C, et al. Mesenchymal stem cells: 2019

監修医師:篠原 義康
アカデミア、ライフサイエンス企業、バイオテック企業で20年以上のキャリアを持ち、細胞生物学はじめとして遺伝子検査、再生医療など幅広い経験を持つ研究者です。TRCでは細胞イノベーション研究部門の部門⻑として、世界の先端的学術研究と臨床応用の橋渡しを行っております。また、治療技術のブラッシュアップと共に、TRCから世界の細胞科学の限界を押し広げるような研究を主導しています。
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