まとめポイント
- 「ブレインフォグ(頭のモヤモヤ)」とMCIは症状が似ているが、医学的な背景が異なり、ブレインフォグの方が改善しやすい傾向
- MCIの原因は、◯◯等で「回復・予防できるもの」と、アルツハイマー病などの「進行する疾患」と様々
- 進行するMCIの原因疾患は10種類以上あり、それぞれ初期サインが異なるため、正しく見極めることが大切
加齢とMCI
MCI(軽度認知障害)が疑われる年齢層は、50歳代以上であり、ちょうど自然な加齢により身体面・認知面とも低下が起こる時期と重なっています。ベースには自然な加齢の影響があり、さらに何らかの原因が加わると、元々の定義(MCI=認知症の前段階)どおりの「MCI」になります。
回復するMCI
「MCIの状態」と一度判断されても「健康な人でも起こる加齢(低下)が少し早めにやってきただけだった」「感染症が改善されたら、認知面も改善された」などのケースも含まれます。そういったケースが、「回復するMCI(ある意味、みせかけのMCI状態)」になります。経過観察を行わないと判断しにくいことがあるというわけです。下の表の中での「治る認知症」に当てはまり、認知症未満のMCIの状態であれば改善が見込めます。
認知症をきたす主な原因疾患
原因 | 疾患名 | 治る認知症 |
|---|---|---|
中枢神経変性疾患 | アルツハイマー型認知症/レビー小体型認知症/前頭側頭型認知症/大脳皮質基底核変性症/進行性核上性麻痺 など |
|
脳血管障害 | 血管性認知症(多発梗塞性認知症、戦略的部位の単一病変によるVaD、小血管病変性認知症) |
|
感染症 | 脳炎、神経梅毒 | 〇 |
腫瘍 | 原発性脳腫瘍、転移性脳腫瘍 | 〇 |
外傷性疾患 | 慢性硬膜下血腫、脳挫傷 | 〇 |
髄液循環障害 | 正常圧水頭症 | 〇 |
内分泌障害 | 甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症 など | 〇 |
中毒・栄養障害 | アルコール中毒、ビタミンB12欠乏 など | 〇 |
文献※1より引用
ブレインフォグとMCIの違いとは?
コロナウィルス(COVID-19)の流行後、「ブレインフォグ(頭の中の霧)」という言葉が聞かれるようになりました。頭がぼんやりするという意味合いです。感染から回復した後の集中できない、すぐに思い出せない、考えられないといった状態を指しますが、これらは認知機能(記憶、注意など)が働きにくい状態や意欲が低下している状態をまとめていると考えられます。コロナウィルス感染後のほか慢性疲労症候群(CFS)、うつ病、更年期、睡眠不足やストレスでもブレインフォグという語が使われます。
「最近なんだかぼんやりしている」「ものを覚えられない」という訴えは、ブレインフォグでもMCIでも聞かれるもので、医学的診断の場ではこれらを区別する必要があります。一般的に、MCIに比べるとブレインフォグのほうが改善の見込みが高いです。このように、原因や改善の見込みは異なりますが、背景にある「脳の活動水準の低下」が共通しているため、似たような訴えに繋がりやすいと言えます。
「回復するMCI」はなぜMCIになった?
「MCIって何?」でも記したとおり、MCIのうち1年で約5~15%の人が認知症に移行する一方で、1年で約16~41%の人は健常な状態になると言われています※1。この数字は改善の可能性もかなり見積もることができるというわけです。
MCIという言葉は、認知症研究の中で認知症初期よりももっと早い段階から発見して対応したいという中から生まれました。その後、MCIと思われる人たちを追いかけて調べると、「元々想定されていた進行性疾患からの認知症予備軍」+「それ以外の理由からのMCI状態」の混成チームであったという現状のように思えます。
つまり、後者の「進行性疾患を原因としないMCI」のチームの人たちは改善が見込める割合が高いと言えます。この人たちは、表によると感染症、腫瘍、外傷性疾患、髄液循環障害、内分泌障害、中毒、栄養障害となり、そのうちの多くのものは常日頃の健康状態を整えることで予防が可能なものです。
「回復するMCI」の予防-生活習慣を整えよう
「進行性疾患を原因としないMCI」の人たちは、生活習慣を整えることで予防に努めることはできます。表では「治る認知症」に入っていない「脳血管障害」も、一度病気になるとそれを完全に治すことは難しいですが、予防は同様に可能です。
一言で言えば「健康的な生活を送る」ということになり、「バランスのとれた食事」「適度な運動」「できるだけストレス軽減」「飲酒・喫煙の節制」といった当たり前に言われていることになります。生活の改善で生活習慣病(高血圧、糖尿病など)を防ぎ、それによって心臓や脳の血管を守り老化スピードを遅くさせることになります。
「食事」「運動」で動ける体を作っておくことは、事故を防ぐことにもつながります。転んだり、高い所から落ちたりすると、頭を打つこともあります。そうすると、頭部外傷やクモ膜下出血を引き起こす可能性もあります。その症状として、認知症あるいはMCI、または高次脳機能障害と呼ばれる状態になり、生活が困難になったりもします。そういったことを防ぐ意味でも、「食事」「運動」に気を配ることは大事になるでしょう。
「脳への情報不足」もMCIの原因に?
目と耳のケアの重要性目や耳を労わることもMCI状態の改善には大切になります。加齢とともに白内障や緑内障などの目の病気が起こって見にくくなり、聴力も低下しやすくなったりします。そうすると、外から入る情報が不鮮明になり、その情報処理を行う脳も衰えていき、反応や判断を間違えやすくなります。まずは目や耳からの情報を鮮明で正確なものにしておき、脳の働きを助けてあげることが望ましいです。
進行するMCI と代表的なMCIの原因疾患
MCIの原因は、「MCIって何?」でも取り上げたような病気があります。発病し一定段階に進むと認知症と呼ばれる状態になりますが、病気の経過が長いものならMCIの状態に何年も留まり、人の手を借りずに生活し続けられたりもします。
単なる物忘れではない、MCIの原因となる10の疾患
日本神経学会などの6学会が作成した「認知症疾患診療ガイドライン2017」では、10の認知症になる疾患を章に分けて取り上げており、一般的に知られるアルツハイマー型認知症ももちろん含まれています。
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭葉変性症(ぜんとう-そくとうよう-へんせいしょう)
- 進行性核上性麻痺(しんこうがた-かくじょうせい-まひ)
- 大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつ-きていかく-へんせいしょう)
- 嗜銀顆粒性認知症(しぎんかりゅうせい-にんちしょう)
- 神経原線維変化型老年期認知症(しんけいげんせんい-へんかがた-ろうねんきにんちしょう)
- ハンチントン病
- 血管性認知症
- プリオン病

文献※2より引用
今回は、この中で「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型変性症」について取り上げます。この3つの病気は認知症の中で比率が高いものになります。しかし、初期の症状はそれぞれ異なる特徴を持ち、最もよく知られているアルツハイマー型認知症のことだけを念頭に置くと初期のサインをキャッチしにくくなります。
アルツハイマー型認知症~「記憶障害型MCI」からの進行
MCIの1つのタイプ「記憶障害型MCI」は将来的にアルツハイマー型認知症に進むことが予想されます。脳の働きである認知機能はいくつも種類がありますが、その中で記憶の領域が先行して低下するのが特徴です。米国NIHのプロジェクトでは、記憶障害型MCIが認知症の発症するのは1年で16%、2年で24%、3年で49%と報告されています※3。
典型的なアルツハイマー型認知症では、脳の側頭葉から始まり、頭頂葉、前頭葉の順で機能低下が起こると報告されています※4。側頭葉には「海馬」という記憶に関する部位があり、アルツハイマー型認知症では海馬の機能低下により記憶障害から始まるとされます。側頭葉は記憶のほかに言語に関連する部位があり、頭頂葉は視空間認知を、前頭葉は判断力や社会性に関連すると言われています。
つまり、アルツハイマー型認知症の進行は、脳の機能低下が進む順に従って、
側頭葉-記憶
→ 側頭葉-喚語困難(言葉が出てこない)
→ 頭頂葉-視空間認知・構成(着替えができない、三次元図形が苦手等)
→ 前頭葉-判断力低下
と脳萎縮の順序によって説明できます。
レビー小体型認知症~「非記憶障害・多領域型MCI」からの進行
近年、レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症以外の認知症の名称として、少しずつ知られるようになってきました。レビー小体型認知症の前段階は「非記憶障害・多領域型MCI」です。その段階で
・幻視(実際にはないものが見えると述べる)
・認知機能の動揺(昨日はできず今日はできる)
・パーキンソニズム(パーキンソン病で起こる運動症状)
が出現するとされています※5。MCI段階でこれら全てが出現するわけではなく、程度も認知症段階に比べれば軽いと考えられます。
特有の「レビー小体」と呼ばれる異常タンパク質は、MCI段階の脳ではみられませんが、認知症の段階になると出現します。そのほか、認知症の段階になるとレム睡眠時の行動異常や抗精神病薬に対する過敏がみられたりもします。

パーキンソン病の人の運動・歩行の特徴(文献※4より引用)
現在、パーキンソン病とレビー小体病は同じ原因から生じ、連続線上にあるものと考えられています。パーキンソニズム(運動症状)が認知症状よりも1年以上先に出現すれば「パーキンソン病」とされます。「パーキンソン病」も「レビー小体病」も進行していくと類似した状態になると考えられています。
幻視は脳の後頭葉(視覚関係の処理を担う)の血流低下により引き起こされると考えられています※4。レビー小体が後頭葉に沈着すれば「幻視」、視床下部ならば「パーキンソニズム」、前帯状回という部位ならば「自律神経症状」(体温コントロールなど)が出現するということになります。
前頭側頭葉変性症~「非健忘・単領域型MCI」からの進行
前頭側頭葉変性症の前段階は「非健忘・単領域型MCI」であることが多いです。名称に入っているように「前頭葉」と「側頭葉」の機能低下が起こり、それらのどこに変性が起こるかによって日常で現れる症状は違ってきます。
下図のように前頭側頭葉変性症は臨床的に3つのタイプに分類され、発症時の印象はかなり異なっています。しかし、病気の原因は特定の蛋白が集積されることにあり、それが脳のどこに起こるかによって症状が異なるのです。

前頭側頭型変性症の臨床的分類 文献※6より引用
「行動障害型前頭側頭型認知症」は前頭前野中心に機能低下が起こり、人格や社会性、判断力の面に影響が出てきます。そのため、周囲の人とトラブルを起こしたり、いわゆる常識には合わない行動をとったりします。
「非健忘・単領域型MCI」の時期でのサイン
「最近いらいらしてすぐ人の悪口を言うね、年かな?なんか表情というか、動きというか、少し乱暴になってきたような・・」などと人に言われたりする状態。
「意味性認知症」では「意味記憶」の障害が最も特徴的であり、側頭葉中心(側頭極、中下側頭回)の萎縮があります。「意味記憶」は一般的な知識・事実のことを指し、個人的な要素はないものです。
「非健忘・単領域型MCI」の時期でのサイン
「寿司?食べるものだったかな?ぴんとこない。ご飯の上にマグロ?ああ、マグロね」のような反応がみられ、寿司の見た目や味、由来などがわからなくなる。
「進行性非流暢性失語症」は「進行」していく「流暢に言葉が出てこない」状態であり、左脳の前頭葉・側頭葉にまたがる領域の萎縮から起こります。前述した「意味性認知症」と異なり、意味情報は保たれていますが、それに対応する言葉が出てきません。
「非健忘・単領域型MCI」の時期でのサイン
「あの・・・何て言ったっけ?ほら、き、昨日一緒に食べた、あ、あの・・・ま、ま、マグロがのった・・・寿司?ああ、お寿司。」のような状態が軽くみられる。発音が歪んで聞こえるかもしれない。
MCIの治療薬
以上のように、MCIは様々な認知症の前段階という位置づけの状態にあります。ですので、その後の認知症の特徴がごく軽く出ているわけです。軽い状態のうちに特徴を知っておけば、対処法を考える時間を長く取れることになります。
また最近はMCI対象の薬剤(レカネマブ、ドナネマブ)も承認されており、条件に当てはまればその薬剤専門の外来で処方を受けることができます。気になる症状があれば専門外来の受診をおすすめします。
【東京リライフクリニックからのお知らせ】
MCI(軽度認知障害)やブレインフォグの新しいアプローチ
記事内で解説された通り、MCIやブレインフォグの背景には「脳の不活発」や「慢性的な炎症・疲労」が関与しているケースが多くあります。当院では、生活習慣の改善指導に加え、細胞レベルでの環境改善をサポートする「再生医療(幹細胞培養上清液・エクソソーム点鼻等)」や「NAD+点滴療法」を用いたブレインケアをご提案しています。
「ブレインフォグが気になる」「認知機能の低下が不安」という方は、ぜひ一度、当院のカウンセリングでご相談ください。
執筆・寄稿: 言語聴覚士 小山美恵
<経歴>
国立精神・神経センター武蔵病院(現国立精神・神経医療研究センター)もの忘れ外来で心理検査に従事。その後県立広島大学コミュニケーション障害学科、横浜市立脳卒中・神経脊椎センターリハビリテーション部、老健等で言語聴覚療法に関する業務を行う。
参考文献
※1 『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック 第2版』国立長寿医療研究センター)
※2 日本認知症協会|認知症にはたくさんの種類がある
※3 2各論 第6章Alzheimer型認知症、認知症疾患診療ガイドライン2017、日本神経学会監修、2017
※4 認知症テキスト、滋賀医科大学
※5 軽度認知機能障害の神経病理学、高尾昌樹著、臨床神経52:851-854、2012
※6 2各論 第8章前頭側頭葉変性症、認知症疾患診療ガイドライン2017、日本神経学会監修、2017


