ポイントまとめ
- MCIは「認知症の前段階」であり、早期発見・早期対応が大切。
- MCIの人は1年で約◯%が認知症に進行するが、◯%は回復することもある。
- 「少しおかしいな」と思ったら、専門の検査で客観的に確認するのがおすすめ。
MCIとはどんな状態だろう
最近、「MCI(エムシーアイ)」や「軽度認知障害」という言葉を耳にすることが増えてきました。
MCIは「認知症の一歩手前の状態」ともいわれており、「早めに、軽いうちに対応することが大切」という考えが広まっています。
MCIは健常な状態と認知症の中間の状態

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MCIとは?
現在広く使われているPetersen(ピーターセン)らの定義では、MCIとは次のような状態を指します。※2
MCIの定義
- 本人や家族が「物忘れ」や「判断力の低下」に気づいている。
- 認知機能(記憶や判断など)は正常とはいえないが、認知症の基準までは満たさない。
- 複雑な日常生活に少し支障があっても、基本的な生活は自立して行えている。つまり、「認知症というほどではないけれど、少し気になることが出てきている状態」といえます。
自分や家族の変化に敏感な人ほど、MCIに早く気づきやすいのかもしれません。
MCIの4つのタイプ
MCIには次のような4つのタイプがあります。
- 記憶障害のみのタイプ(記憶障害・1領域型)
- 記憶障害に加えて他の機能にも障害があるタイプ(記憶障害・多領域型)
- 記憶以外の1つの機能に障害があるタイプ(非記憶障害・1領域型)
例:言葉が出にくいなどの言語障害のみ - 記憶以外の複数の機能に障害があるタイプ(非記憶障害・多領域型)
例:言語障害+視空間認知障害

※3
MCIタイプ別の特徴と将来起こりやすい認知機能の変化
認知症を引き起こす病気にはいくつかの種類があります。代表的なのはアルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症は、最初に「もの忘れ」が目立ち始め、その後「言葉が出てこない」「段取りがうまくいかない(遂行機能障害)」といった症状が現れていきます。記憶障害が最初に見られるのは、脳の中で"記憶をつかさどる部分(海馬を含む側頭葉)"が先に弱っていくためです。
このように、認知症の症状は「どの病気が原因なのか」「脳のどの部分の働きが低下しているのか」によって異なります。
脳のどの部分から機能低下が始まるかによって、表れる症状が変わるということです。
たとえば、さきほどのMCIのタイプ分類で見ると――
- 「記憶障害のみのタイプ」は、アルツハイマー型認知症へ進行することが多いと考えられます。
- 「記憶障害・多領域型」では、記憶障害に加えて他の機能も低下しており、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症の可能性が高くなります。
- 「非記憶障害・1領域型」は、前頭側頭型認知症へ進行することが予測されます。前頭側頭型認知症は、前頭葉の働きが弱まり、人格や社会性、感情のコントロールなどに変化が現れやすいことが特徴です。
- 「非記憶障害・多領域型」は、レヴィ小体型認知症や脳血管性認知症の前段階であることが考えられます。レヴィ小体型認知症の初期には、アルツハイマー型と比べて記憶障害は軽く、早い段階から視覚認知障害が見られる点が特徴です。
「記憶障害型」「非記憶障害型」のいずれも、多領域にわたる障害がある場合は、脳血管性認知症と関連している可能性があります。脳血管性障害では、脳のどの部分がどの程度障害されるかによって症状が多様に現れるためです。MCIは比較的軽い状態ではありますが、複数の脳機能に低下がある場合、脳血管でのごく軽い異常が関係していることもあります。※4, 5
MCIは治る?治らない?データが示す『回復』の可能性
実はデータにより以下のことがわかっています。
- 1年後に進行する可能性:5~15%
- 1年後に元気な状態に戻る可能性:16~41%
- 残りの方は1年間状態が変わらない方たち

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つまり、早い段階で気づいて対応することで、進行を防いだり改善したりできる可能性があるのです。
MCIの人の生活の様子
「最近もの忘れが増えた」「言葉が出てこない」「人の名前が思い出せない」――
そんな経験をすることはありませんか?
ここでは、MCIの人の生活の一例を紹介します。
Aさん(60代男性・定年退職後、非常勤勤務)の場合

ある日、講演会の準備を若手社員と相談し、会場設営のいくつかの作業を任されました。
以前なら手際よくこなせたのに、1つの作業をしていると別の作業が気になり、「忘れないうちにやっておこう」とあれこれ手をつけてしまい、結果的に予定よりずっと時間がかかってしまいました。
また、妻から買い物を頼まれたときも、以前は5つくらいならメモなしで覚えて買ってこられましたが、最近は1〜2個思い出せず、途中で妻に電話をかけるようになりました。全部覚えているつもりでも、不安になって確認することもあります。
→以前より記憶できる量が減り、それを自分でも感じて不安になっているようです。そのため、落ち着いて物事を進めにくくなっています。
Bさん(70代女性・主婦、現在は無職)の場合

息子に「最近もの忘れが多くて、年をとるっていやね」と話すことが増えました。
ご近所の顔見知りの名前はすぐ出てくるのに、最近会っていない趣味仲間の名前はなかなか思い出せず、「ほら、パン屋の隣に住んでいるあの人」と説明することが多くなっています。
また、料理中に鍋を火にかけたまま他の作業を始めたり、洗い物がたまって作業しづらくなったりすることもあります。
本人は「年のせい」と気にしていませんが、息子は「もしかして年齢のせいだけじゃないのでは」と心配しています。
→ 年齢によるもの忘れだけであれば問題ありませんが、実際に記憶や注意力の低下がどの程度あるかは、検査をしてみないと分かりません。
まとめ
このように、MCIは「日常生活はなんとか送れる」レベルであるため、気にすべき状態なのかどうか判断が難しい場合があります。
そんなとき、早めに気づいて検査を受けることは、進行を防ぐ第一歩につながります。
気になるサインがあるときは、ためらわず専門機関に相談してみましょう。
著:言語聴覚士 小山美恵
<経歴>
国立精神・神経センター武蔵病院(現国立精神・神経医療研究センター)もの忘れ外来で心理検査に従事。その後県立広島大学コミュニケーション障害学科、横浜市立脳卒中・神経脊椎センターリハビリテーション部、老健等で言語聴覚療法に関する業務を行う。
参考文献:
※1 『あたまとからだを元気にするMCIハンドブック 第2版』国立長寿医療研究センター
※2 朝田隆『軽度認知障害(MCI)』認知神経科学Vol.11、2009
※3 認知症ネット https://info.ninchisho.net/mci/k40
※4 羽生春夫「初期診断(MCIを含む)」『日本内科学会雑誌』100:2109–2115,2011
※5 橋本衛・池田学「2. 非Alzheimer型認知症」『日本内科学会雑誌』100:2099–2108,2011

